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高専ロボコン2015 関東・甲信越地区大会

というわけで、たまたまやってたので録画して観てみた。今年の競技は「輪花繚乱(わっかりょうらん)」。ものすごく身も蓋もなく言えば輪投げだ。フィールド上の9本のポール全てに輪をかければ「Vゴール」で勝ちとなる。
ルール的に見たポイントとしてはVゴールが充分現実的であることと、相互作用が少ない(≒妨害が難しい)ことがあげられる。つまり最速でVゴールを狙うのがそのまま最適解である可能性が高い。
もうひとつ小さなポイントは輪を装填した状態でスタートできることがあって、基本的にはたくさん持てた方が得ということになる。


この地区で最速を実現したのは産業技術高専荒川キャンパス(以下「荒川」)Aチームの「荒鯊」で、フィールド中央から動かずに9本をほぼ同時に射出して決められる機能と精度を実装した。圧巻は一回戦で、中央に位置どると後ろに3本、前と奥に6本と輪を放ち、12秒でVゴールを決めてしまった。全国の予選で最速だったそうだ(今年は関東・甲信越地区が最後の開催だったとのこと)。


しかし決勝で荒川を下して優勝したのは長野高専Aチーム「C-RAZair(シーレーザー)」だった。ここは決して早くないのだが防御機構と大きな輪で5点や10点を取る機能を持っている。防御機構といってもマシンの後方上部に張り出してる部分があって、そこからダミーの輪をうにょんと突き出させてあるだけなのだけど、それでも自陣のポールの目の前に居ればそのポールは守れる能力があった。


試合は接戦になった。長野が一本のポールを守るなか、荒川は早々と他の8本を確保する。荒川の再装填の間に長野は自陣の残り二本に輪を入れて3-8とするが、中央のポールを取りに行ったとき足回りの調子がおかしくなって狙いを定められず、輪を放てないまま戻るはめになり、再装填を終えた荒川に狙いを定められて最後の一本の前から動けなくなってしまう。大きな輪を一本荒川のマシンに投げつけてみるが、むなしく地面に落ちる。
残り20秒までにらみ合いが続いたが、長野は動かざるを得ない。空いたポールを狙って荒川は満を持して輪を放つ。だが輪はポールに当たりもせず後方に落ちた。長野のマシンが足を引きずるように中央のポールに近づく。時間がない、3秒、2秒。輪が飛んだ。2本のポールにまたがるように輪はかかった。8-8でタイムアップ。レギュレーションでは同点の場合は判定の筈だが、審判の裁量によって再試合となった。


再試合はしかし大差になった。序盤は同じ展開だったが、足回りを修理しおおせた長野は荒川の再装填の隙に今度は10点を取ることに成功したのだ。あとは最後のポールの前に立ちはだかるだけで、もはや負けようがなかった。


防御が勝敗の鍵を握るとは思ってもみなかった。大量に輪を持てる能力も、5点や10点を取れる能力も全てが長期戦向きで、その志向が優勝に辿り着いたのは予想外だった。こういうところがロボコンの面白みだ。とはいえ、大量点を取るためにはガードを下げなければならず、たまたま荒川が一度しか輪を放てないから勝てたけれど、例えば後述の長岡が相手なら少なくとも同じ戦法では勝てなかっただろう。
全国でこの戦い方がどこまでつぼにはまるかわからないが、そうはいっても速攻Vゴールが可能で再装填などの隙がないマシンがそうそうあるとも思えず、点の取り合いならまず負けないので、いいところまで行きそうには思う。


荒川は実に惜しかった。会場でおそらくもっとも相性の悪い相手に決勝で当たったのは不運だった。ただ悔やまれるのは、一試合目の最後の輪だ。長野は端のポールを守っていた。それを正面から狙ってしまった。もちろんその状況だって練習はしていただろうが、いつも通りにフィールド中央から斜に狙うべきではなかったか。
全国行きには選ばれたので、可能であれば機構を改良して(敵陣を狙う輪が3つ独立のタイミングで打てるとよい。二連射できるとなおよい)上位を狙ってほしい。


その他全国行きは小山高専Bの「輪Navi君」と群馬高専Bの「上州カウボーイ」。前者は輪の射出方法がユニークで、見た目よりはずっと正確な狙いが売り。後者は腕を振り回しながら上体を反らせて背の高いポールを狙うさまが妙に人間くさくユーモラスで、納得の全国行き。ちょこんと置かれたテンガロンハットもキュートだった。


惜しくも全国行きを逃したのは長岡高専B「Nagaoka-Fireworks」。準々決勝で荒川Aと当たり、自陣のポールを取り損ねてなすすべなく負けたのだが、2回戦では21秒のVゴールを決めていた。敵陣のポールを狙う輪を別々に打ててしかも二連射できるようだったので、例えば長野を相手にしても荒川が見せたような再装填の隙がない。たらればだが、長野Aが先に荒川Aと当たって(負かして)いれば、優勝は長岡Bだったかも知れない、という想像はそれほど無理のあるものではないと思う。選手はインタビューで泣きながら「もう少しこのメンバーでロボコンがしたかった」と言っていた。今調べたのだが、特別賞(六者受賞)からももれていたようだ。さすがに気の毒でならない。
おれがこんなところでなにを書いてもどうにもならないわけだが、それでも書いておこう。あなたたちの作ったロボットは、決勝に進んだ両チームにも決して劣らないものだったと思う。足りなかったのはほんの少しの運だけで、そればかりは人間にはどうすることもできない。どうか今年のロボットと戦いぶりを誇りに思ってほしい。そしてまたできれば来年、そうでなくともどこか別の機会に、また素晴らしい作品を見せてください。