黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』 高橋明也著 ちくま新書,2015



『美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには』 ISBN:9784480068613


著者は三菱一号館美術館の初代館長で、国立西洋美術館学芸員として長く勤めた経験を持つ。タイトルは「美術館の舞台裏」だが、それこそ「そも学芸員とは」というレベルの話から始まって、現在の美術館の状況、展覧会の収支、作品の保存、日本と欧米の違い、などなど様々なテーマで美術館と展覧会を語っていく。そこまでマニアックな話はなく、そこまで難しい話もなく、極端な物言いはないが適度にユーモアを交えて面白く、抑制の効いた語りが最初から最後まで続く。大変よくできていて読みやすく、おれのような素人が読めば確実に読んだ後ある程度の知識が身につく、良質な本。新書というのはかくあるべきと思う。あとがきによると編集者ともうひとりほぼ素人の聞き手を配してそのふたりの疑問に答える形で作っていったのだそうで、なるほど行き届いている感じがするのはその制作過程にも理由があろうと思った。逆に言うと尖ったところが本当にほとんど全くない本で、あまりにもつるんと読めてしまう。それはおれが求める読書体験としてはいささか物足りないのだけど、こういう本にそんな体験を求めることが間違っているのだろう。