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終わりの向こうへ:廃墟の美術史 於松濤美術館,2018-12-08~2019-01-31

先週はその前の日曜日から六連勤だったので、さすがにそろそろ休もうと勝手に決めて有休をとり妻とデートする。神泉駅から歩いて松濤美術館へ、「終わりの向こうへ:廃墟の美術史」。
廃墟というのはけっこう昔から絵画のモチーフになっているのだそうで、この展示でも古いものは 17 世紀からだったのだけど、絵を見れば一目瞭然、ヨーロッパには千年ものの遺跡がごろごろ……、とまでは行かないだろうがたぶん普通にある。であればそれが単なる空き家をとうに通り過ぎて「絵になる」モチーフであっただろうことは想像に難くない。それを今も昔も絵になると感じる人間の心性というのは面白いと思うけれど、それはそれとして「そりゃ描くわ」という感じではあるかな。

かくいうおれも廃墟けっこう好きなので、なかなか楽しく見られた。キャプションがけっこう細かいというか余計なことまで書いていて、たとえば「キケロの別荘」には「まあたぶんキケロの別荘じゃないけどな」みたいなことが書いてあったりして面白い。「この建物は画家の複数の絵で使い回されている」みたいなことも書かれていたりした。おそらく廃墟に限った話でもないのだろうけれど。
ビラネージのエッチングが何点か出ていて、画面も大きくて迫力があってよかった。エッチングは廃墟を描くのに向いている気がする。何点かの絵の複数箇所に「A」とか「B」とか書かれてたんだけど何の説明もなくて、あれはなんだったんだろう。「古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点」、古今のモチーフがめちゃくちゃに並べられていて楽しい。ルソー先生は「廃墟のある風景」で参戦。肝腎の廃墟がぺらぺらな感じで面白かった。日本の画家のも何人か出ていて、不染鉄の「廃船」はスケールが印象的。あと岡鹿之助の「廃墟」が脱色されたような色使いと窓や壁の構造のディテイルが美しかった。
デルヴォーが何点か来ていて、また「海は近い」と再会。うむ、やはりなんか変にひとを不安にさせるようなところがあるね。何点か並べてあるとなるほどこういう感じか、というのが見えてくるのはいいところ。ただ、シュルレアリズムにおける建造物を「廃墟」と位置づけちゃっていいのかはちょっとわからないところがある。マグリットも一点、「青春の泉」、これはいつもとちょっと違うわびしさという感じ。
あとはⅥ章に日本の現代画家が何人か。元田久治はこの展覧会のチラシやポスターでも使われている渋谷センター街の廃墟を描いた「Indication:Shibuya Center Town」など。これは中々好きでしたね。妻は「ちょっと現実に近すぎてちゃんと見ることができない」と言っていた。そういう感覚もあるのかと思って面白かった。おれは作品と現実はすぱっと切り離しちゃうたちなので……。比較的画像で見るのと実物の印象が近い(いやかなり大きな絵なので全然違うんだけど)。大岩オスカールの「動物園」と「トンネルの向こうの光」もこれでもかという大画面に描かれてる人工物のノスタルジアがいい感じだった。

というわけで、この美術館らしいセンスのいい、手頃な分量の展示でたいへん満足。よい展覧会でした。もちろんこれを他人が読む頃には終わってるけどな!
作品リストはこちら。→https://shoto-museum.jp/wp-content/user-data/exhibitions/181haikyo/list.pdf

  • 妻から聞いた話。中学の頃美術の授業で「なんでもいいから好きな絵を模写しなさい」という課題が出て、妻は教科書に載っていた岡鹿之助の「廃墟(ミディー)」*1という作品を模写することにした。普通にめちゃめちゃ大変で時間内には全然終わらず、持ち帰って何日もかけて描いて、やっと仕上げて提出した。我ながらいい出来で、その甲斐あって区の展覧会に選ばれてどこだかで展示された。嬉しかったが展覧会の後とうとう戻ってこず、それっきり見ていない。……という話。いかにも学校でよくあるたぐいの話だなと思ったけど、残念だと思うし、なによりそれをおれが見てみたかった。


見終わってからは渋谷(といってもマークシティの裏口のほう)まで歩いて、当初は前日に調べておいたカフェに行く予定だったのだけど、なんかちょうど牛かつ屋を発見。そういえば少し前から牛かつも食べたいって話してたので急遽方針変更して牛を食べる。なるほどこういうものなのか。ごはんとキャベツがおかわり自由というありがちなシステムでたらふく食べてしまう。
その後は本屋に行った後、おれだけ銀行へ。ブースみたいなところでモニタ越しに手続きする。なるほど今日日こんな感じなのか。人件費を削減するにはいいのかもしれない。おれは少なくともこの扱いで不満はないけど、まあ嫌がる人はいるかも、という感じではある。

*1:「廃墟(ミディー)」:たぶんこれではないか、とのこと。岡鹿之助だったのは間違いないが、岡は廃墟の絵を何枚も描いているので、はっきりこれかどうかはわからないみたい。参考→https://blog.goo.ne.jp/shohokimura/e/9d9cb4460a19a86f202dd99a3f88bbcd