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『ベルギー 奇想の系譜』 Bunkamura ザ・ミュージアム,2017

ベルギーのちょっと不思議な絵を描く人たちを一堂に集めてみました、という趣の展覧会。ヒエロニムス・ボスから現代作家まで、いくらなんでも無理あるだろ、と素人的には思うけども実際どれぐらい無理がある企画なのかはわからない。
で最初はボス工房の絵を筆頭に延々とヘンテコ宗教画が並ぶ。おれがブリューゲル(父)の芸風だと思ってたものはこの文脈ではむしろ当たり前だった……あのなんか隅っこの方に足の生えた魚が歩いてるみたいなアレね。で、説明によると、ボスの絵は人気あったので「ボス風」の絵が版画というマスメディアで出回って、いろんな作家のインスピレーション元になってるよ、みたいな話。実際ある版画に出てくる魚戦艦みたいなモチーフがまるまる別の絵でパク……引用されてたりして、そこら辺は普通に面白かった。それでブリューゲルの作品もあるんだけど、見る人へのサービスとして遠景に当時最新技術だった荷揚げクレーンが描かれてるよ、みたいな説明があって面白かった。荷揚げクレーン見てうれしいかな? でも、おお、あれは我が町の荷揚げクレーン、とか思ったらうれしかったかもね。
さて中盤からは急に洗練されたなと思ったらいきなり 300 年ほど時代が下りまして 19 世紀になってた。そりゃ洗練もされるわ。ここではフェリシアン・ロップスさんがよかったですね。特に『略奪』という絵がたいへんかっこよかった。あとは『毒麦を撒く悪魔』がよかった。悪魔が種麦撒いてるっぽいんですけどよく見ると建物をふんずける大きさでなんか天使みたいなのひっつかんでぶん投げているという。絵はがき無いかなーと思ったけどもちろんなかった。まあほとんど真っ黒な絵で、印刷じゃ全く良さが伝わらないタイプの絵だったのでそこはしょうがあるまい。
あとはまったく聞いたこともなかったスピリアールトさんというひとの絵がたった一枚だけあってこれが実によかった。『堤防と砂浜』。独学でずっと絵を描いてて、ある時期不眠症になって故郷を彩度のごく低い絵で延々と描いてたことがあるらしいんだけど、その時期の絵で。堤防と砂浜と遠くの海と暗い空が全部トーンの違う灰色で描かれているという孤独を煮詰めたみたいな絵なんだけど、おれにとっては寂しさというのはノスタルジアと密接につながっているところがある。灰色も好きな色だし、これはほんとよかった。今ちょっと検索してみたけどおれこの人の他の絵もぜったい好きになるな。憶えておこう。
そんで時代はさらに下ってマグリットとかデルヴォーとか。デルヴォーの『海は近い』、明らかにパースが狂ってて変な気持ちになるんだけど、色使いが本当に素晴らしくて印象に残った。マグリットは『大家族』、あの鳥の形に青空が見えてるやつ、もしかするとおれは周りの荒れた海が好きなのかもしれない。





ばらばらと書いてきたけど、楽しい展覧会でした。ロップスとスピリアールトに触れられたのはよかったな。こんな風に先につながる出会いがあるのはこういうテーマ展のいいところなのだろう。残念ながら会期は 9/24 までだったのでもう終わっています。巡回もここが最後。