- 作者: ジム・シェパード,小竹由美子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2016/10/22
- メディア: 単行本
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いや小説ってだいたいそうじゃないの、と言われると仰るとおりで、著者の真骨頂はディテールとその細工にある。もうひたすら見てきたように細部にわたって語るのだが、それがどこまで本当のことなのか判らない。おそらく相当よく調べて書いているのだが、それをどこまで作品に反映させているのかが全然判らないのだ。
たとえば表紙で写真が使われているテレシコワは収録作「エロス7」の主人公なのだけど、彼女が宇宙に行く理由は意外なものにされている。それ自体は多分ホラなのだけど、さて、じゃあ、本当のところは? というとわからないところがある。ソ連という国家の英雄だったテレシコワにも自身の動機はあったに違いないのだ。また、これは全く個人的な感想だけど、『ロシヤ宇宙開発史』に書かれていたテレシコワとライバルたちのエピソードを思い起こすとこの掌編はけっこう苦くも切ない。歴史の隙間を縫うように広げられた想像力が、くっきりとした印象を残す。
「ゼロメートル・ダイビングチーム」はチェルノブイリ原発事故に巻き込まれた三兄弟の物語。その瞬間にそれぞれの居た場所と立場によって、事故との関わりとその後の運命は全く違うものになってしまう。まちがいなく悲劇なのだけど、著者は長男に視点を据えながら驚くほど淡々と物語を進める。読んでいくうちに痛切な取り返しのつかなさが湧き上がってきて、それがよかった。
この本を読んだきっかけはこの記事だった。
小竹由美子さんと、『わかっていただけますかねえ』について語る。 -- 翻訳について語るときに私たちが語ること
たまたまはてブで見かけて読んだのだが、翻訳者へのインタビューというか、対談というか、そんな内容なのだけど、なにか読んでみたくさせるような記事だった。読んでよかった。*1
わかった(understand)か、と言われると、わかったような、わかんないような、という感じで、おれがこの本のいいところを本当に受け止められてるのかは正直よくわからない。それでも面白かった、と思う。ただ訳者あとがきに出てたエピソードによると、著者はミネソタ・ヴァイキングズのファンらしい。だからおれの評価はかなり甘くなってるかもしれない。