黄昏通信社跡地処分推進室

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ヤモリ

業務中に妻からメールが来ていて、なにごとかと思ったら「洗濯物にヤモリの赤ちゃんくっついてた」という文面とともに可愛いヤモリの写真が送られてきた。いいなー、うらやましい、と送ったら、おれが帰るまでジップロックコンテナに監禁しておいてくれた。体長は尾まで入れて 5cm ほど、たぶん赤ちゃんは正確ではないが明らかに大人でもない。で、とにかくほんとうにかわいい。なにをするわけでもないのだが、見ているだけで可愛く見飽きない。たぶん一時間ほど家族四人で見てしまった。コンテナの内側に霧吹きで水滴を作ってやったらぺろぺろ舐めてたのがハイライトでしたね。


しかし飼うわけにもいかぬ(生きた虫しか食べないので維持が難しい)。最初は翌朝逃がそうかとも言っていたのだが、夜のうちに虫を捕るから今のうちに逃がしてごはんを食べるチャンスをあげようということになり、子供たちも納得したのでコンテナのふたを開けてベランダに出した。少しするとするっと出ていき、もう戻ってこなかった。


そこからが大変である。ほんの数時間だったが愛らしい姿を存分に見せてくれたヤモちゃんに子供たちは情が移り、特に息子はわんわん泣いた。娘も泣いた。ベッドに入ってからも泣きっぱなしでとても眠れないと訴える。でも、去年のカブトムシの時もそうだったように、これは乗り越えなくちゃいけない。とはいえ慰めてやることはできる。コンテナは出しておくことにしたから、また戻ってくる、と言ってやる。ぜったい? と聞くので、むしろ逆の方の絶対だろうと思いつつ、絶対くるよ、と言ってやる。それを息子がどう思うかはわからないし、たぶん文字通り信じたりはしないだろうけど、それでも父親にそう言ってもらえることはわずかな心の安らぎになるはずで、眠るために必要なのはまさにそのわずかな安らぎなのだ。寝て起きて、からっぽのコンテナを見て、ヤモリのことを思い出して、ああ、行っちゃったな、ヤモリ、と思うだろう。それでもあの張り裂けそうな心の痛みはちょっと遠のいていることにきっと気づくだろう。