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『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』 竹田人造著 早川書房:ハヤカワ文庫JA,2020-11-19

第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。人工知能を含めた情報技術のハックをテーマにした連作中編で、コンテスト応募時の『電子の泥船に金貨を積んで』というタイトルが刊行時にこれに変更されたことでちょっと話題になっていたのを記憶している。
少しだけ未来の日本が舞台。主人公の人工知能技術者三ノ瀬は、親の借金が原因で、フリーランス犯罪者の五嶋のもと犯罪計画に加担することになる。一篇目では自動運転現金輸送車を狙い、二篇目と三篇目では福岡に作られたカジノを狙う。AI がそれぞれの状況においてどのように実装されるかということが地に足の着いた設定として描かれ、三ノ瀬がそれをどのようにハックするかというのが三篇に共通した読ませどころとなっている。実際に著者は機械学習をやりこんでいるようで、素人の自分から見れば技術的な描写は充分に説得力がある。また、どういう状況でも技術的な正しさを追求してしまう三ノ瀬の性格はなかなかいい味を出していて、ある種の筋が通っているやつってのはたとえその筋の細かいところがよくわかんなくても魅力的だなと思う(フィクションならなおさら)。で、その筋を通そうとすることが物語を駆動する構造になっているのがとてもいいところ。
逆にストーリー的な展開はちょっとしんどいところもいくつかあって、たとえば一篇目から二篇目へのつながりは、三ノ瀬これで済むはずないよな……と思えたり、犯罪組織もそこここでちょっと甘かったりというところはある。あとは、敵役のキャラクターはそんなに好きになれなかったかな。面白くはあったけど、次の作品が出たら読もうと思うかと問われるとなんともいえない、ぐらいの感じ。

ちなみにタイトル変更については著者本人が note にエントリを上げている。興味を持たれた方は読んでみるとよい。→https://note.com/takedajinzo3/n/n8033eaf4bbf6