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『ヒトの言葉 機械の言葉「人工知能と話す」以前の言語学』 川添愛著 KADOKAWA:角川新書,2020-11-10

言語の理解に関する基礎的な解説書。人間と会話して意思疎通ができるような汎用人工知能を作るとして、その前提に「人間の言っていることを“理解”する」というタスクがある。だがこれは簡単ではない、というかめちゃくちゃ難しいのだ、ということを説明していく。言語学者にして作家である著者はこの手のことはおそらく最も得意な分野で、おれたちが当たり前のように使いこなしている日本語にひそんでいる「難しさ」をひとつひとつ丁寧な事例を引きながら解説する。著者がそう自称したことはたぶんないが、これはまさにサイエンス・コミュニケーターというべき仕事だと思う。
とはいうものの、これは本当に基礎の本なので、著者の本をだいたい読んでるおれからしてみるとさすがに他の本で読んだ内容が多く、新鮮味には乏しかった。コンピューターによる言語認識/意味の理解などに関心がある人が最初の入り口として読むにはとてもいいと思う。そういうのは何冊か読んだんだよねという人には物足りないはずなので、著者の他の本、特に『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」』(おれの感想)か『自動人形の城(オートマトンの城): 人工知能の意図理解をめぐる物語』(おれの感想)にいきなり進むのがよい。