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『青のオーケストラ』 阿久井真 小学館:裏少年サンデーコミックス,2017~ 既刊11巻

コロナで寝込んでる間なんとなくリビングのテレビがつきっぱなしになっていることが多く、おれが隔離されていた子供部屋はテレビの真裏なので音だけ聞こえていた。それでアニメ化されたこの作品の音声だけが聞こえてきた。てっきりドラマだと思ったのだが調べてみたらアニメだったうえに、ちょうど日曜日にこれまでの放送分をまとめて再放送していたので連続して聞くことになって、ついでだからNHKプラスで見たりしているうちにちょっとはまってしまった。原作漫画があるということで調べてみると掲載は裏サンデーであり、バックナンバーはマンガワンで読める。というわけで数日かけてマンガワンで既出分を全部読んだ。

主人公青野一(あおの・はじめ)は天才ヴァイオリニスト青野龍仁(-・りゅうじ)のひとり息子で、本人も才能に恵まれ小学生の頃からコンテストで優勝するほどの腕前だったが、物語の開始時点である中学3年の秋にはヴァイオリンを止めてしまっている。ところがあるきっかけで出会った隣のクラスの秋音律子(あきね・りつこ)にヴァイオリンを教えることになり、秋音のものおじせず楽しそうに弾く姿にヴァイオリンの楽しさを思い出す。そして秋音に勉強を教わりながら強豪オーケストラ部を持つ海幕高校を目指し、見事秋音と共に合格する――というあたりまでが導入。ここまでで1巻の終わり近くぐらいかな。
高校に入ってからはオーケストラ部を舞台としたけっこう本格的な部活ものになっていく。青野は同じ1年生のライバル佐伯直(さえき・なお)と争いながら高みを目指し、秋音は経験者の中で苦しみながら実力を伸ばし始める。夏の定期演奏会、秋の全国コンクール、冬の合唱部との合同演奏会、と演奏の機会を重ねながら、偉大な先輩たちの引退、代替わりに伴う軋轢、強豪校ならではの連覇のプレッシャーといった部活ものの(ある意味ではお決まりの)テーマを描きつつ、さらにその中で何人かのキャラクターがフィーチャーされて描かれていく。公式サイトなんかを見るとアンサンブル青春ドラマ、という煽り文句がついているのだけど確かにそうで、これだけの登場人物を捌きながら物語を駆動していく構成力がすごい。人物を描こうと思えば展開が遅くなるし、出来事を追っていけば人物はあっさりしてしまう。連載漫画には常にその二律背反があって、連載が続くほど前者に寄ってしまいがちだけど、本作は今のところ失速に陥っていない。
もちろん後者を選んでいるからには限界はあって、たとえば弦楽器どころかヴァイオリン以外のパートの登場人物すらそんなには出てこないし、キャラクターもどちらかといえば類型的に描かれていることが多い。でも若い登場人物の成長をキャラクター同士の関係性を軸に描いていくのは心地よく、そのまっすぐな姿がまぶしい。
そして、絵も漫画も上手くて見ていて心地よい。キャラクターの描き分けが上手く、みんな制服で下手すると全員同じ楽器持ってて、という絵面でもはっきり描き分けられているのは大したもので、体格や背丈まで正しく絵に反映させているのはすごい。