黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

順列都市』を読了。
この話なにが面白いんだろうなと真剣に考えるが(面白いことはおれにとっては自明であり、なにがどう面白いのかが問題)、なかなかまとまらない。塵理論は凄いけど、多分それだけではここまで面白くならない。終盤の展開も凄いけど、何が起こっているかをぱっと伝える力には欠く。誰が読んでも面白い作品とはかなりかけ離れている気がする。
<コピー>という技術の存在を仮定して、人間の意識の連続性がどこから生じるかを探る、というのが前半のポールのパートの展開なのだけど、作中で実験が進むにつれて明らかにこれはどこかおかしいと読者は気付く。冷静に考えてみると、所与のものと考えていた議論の前提がどうも怪しいようだ。ついでに、意識の話の筈だったのに何故か「そも世界とは」という話になっている。
物語で描かれる世界は、最初は確かに現実世界と地続きであるように思えるのに、いつの間にかはるかかけ離れたところに連れて来られてしまっている。辿り着く先が塵理論だ。狂っているとしか思えないアイデア。でも、一見まったくのたわごとのように思える塵理論には、どういうわけか人を引きつけるところがある。限りがないこと。あらゆる可能性が内在していること。まったくあり得ないとは言い切れない気がすること。そんな地平の視点を獲得できるのが、この作品の面白さだ。そしてこの面白さは、SF というジャンルの根本的な楽しさにとても近い。

残念ながらこの作品は初刷が出てからしばらく品切(絶版)状態で、6年以上経って初めて重版されたのに、またそのまま品切になっている。もう少し広く読まれてもいい――せめてもう少し簡単に手に入る作品であって欲しい。

未読の方に、おせっかいながら。
特別な科学的知識は必要ないけど、セルオートマトンに関する基本的な知識があるとより面白くなるので、それこそ wikipedia:セル・オートマトン だけでも読んでおくといい。あるいは、最も有名なセル・オートマトンであるライフゲーム *1 に触れてみるのもいいかも知れない。

*1:ライフゲーム:英語では「Game of Life」だが、発明者(ジョン・ホートン・コンウェイだ!)の名を冠して「Conway's Game of Life」と呼ばれることが多い。日本でもおなじみの「人生ゲーム」の原題が『Game of Life』だからそれと区別するためで、そっちは「Hasbro's Game of Life」と呼ばれるそうだ。ハズブロなのかー。