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[長えよ]心に残るゲームたち (31):『野豚の異常な食欲 またはいかに私は心配するのをやめて蛸を愛するようになったか。』

■『野豚の異常な食欲 またはいかに私は心配するのをやめて蛸を愛するようになったか。』 システムソフト/PC-60011984


よくできているゲームが、面白いとは限らない。この単純な事実が自分の中で腑に落ちたのは、『野豚の異常な食欲 またはいかに私は心配するのをやめて蛸を愛するようになったか。』というゲームを遊んで、ある程度時間が経ってからのことだった。


発売はシステムソフト。『大戦略』で知られるのはもう少し後になるが、この時点でも既にかなりの地位を築いていた老舗ソフトメーカーだ。PC-6001 ではあまりソフトを展開していなかったと記憶しているが、『ロードランナー』の移植はこのメーカーだった。


とにかく、抜群に完成度の高いゲームだった。主人公はサングラスをかけた豚で、森あり川ありの正方形の島をかけめぐり、島をうろうろしている蛸を全部やっつけると1面クリアとなる。


島の大きさはおそらく 16×16 ぐらいだったが、同時に画面に表示されるのは野豚を中心とした7×7の範囲だけ。レーダーマップが画面右側に表示されていて、島全体が青い正方形で表示され、野豚の位置が黄色い点、蛸の位置は赤い点で示される。『ラリーX』に近いシステムと言えば、ご存じの方にはわかりやすいかも知れない。


島には木が生えていたり水が流れていたりで迷路状になっている。野豚は動いていてもじっとしていても段々腹が減ってくる。その満腹ゲージがレーダーマップの上側に表示されていて(これも『ラリーX』に似ている)、島にいくつか落ちているかき氷を食べるか、蛸をやっつけるとゲージがいくらか回復する。ゲージが0になっても死にはしないが、悲惨なことになる。
蛸は豚と同じ速度で動いていて、ということは結構速い。画面に入ってから逃げることは殆ど不可能と言っていいほどだ。したがって、プレイ中は常に右側のレーダーマップに気を配り、蛸の接近を警戒しなければならない。


蛸を倒すには、蛸壺を使う。幸か不幸か、野豚には売るほどたくさん蛸壺の持ち合わせがあって、それを地面に落とし穴のように置くことができる。ゲーム上は、設置スペースがある限りおそらくいくつでも置けたのだと思う。
壺にはまった蛸は少しの間出られない。その間に、これまた島の中にはごろごろある煉瓦を押してきて、壺の上から落っことせば一丁上がり。


というわけで、煉瓦が近くにあって、できれば一本道になっている地形で、蛸を待ち伏せすることになる。だが敵もさるもの、野豚がじっとしていると警戒して近寄ってこないアルゴリズムが組まれている。そこそこいい位置で、適当にうろうろしながら待つのがよい。


グラフィックがとても美しく、限られた色で島のオブジェクトと野豚、蛸、かき氷、といったキャラクターを描き、それがちらつきもせず高速で動いていた。
その上に BGM も二曲きっちり鳴らし、効果音や面クリア時のファンファーレなんかも中々凝っていた。旺盛なサービス精神が高い技術力に支えられてパッケージングされており、初めて遊んだ時は本当に感心したものだった。


しかし。
なんというか、その、遊んでいて、どうもそんなに楽しくないのだ。面が進むと蛸が増えてオブジェクトの配置も変わり、難度が上がっていく。確か全4面だった筈だが、とうとう最終面をおがむことすらなかったように記憶している。そしてそれは、難しかったからというよりも、それに挑み続けるだけの意欲をそそられなかったから、という原因の方が大きかったように思う。
それでもこのゲームは結構な回数遊んだし、これだけ記憶にも残っている。足りないところはあったけど、それだけのものを持っていたゲームだった。欠けているものも、たぶんほんの少しだったのだ。でもその少しのなにかが無かったために、このゲームはおれにはこんな風にしか思い起こされることがない。


最後にひとつ。上で「ゲージが0になっても死にはしないが、悲惨なことになる」と書いたが、具体的には野豚の動きがものすごく遅くなって逆に蛸の速度が超高速になる。普通に考えれば詰んでいるが、実はそうでもなくて、まず蛸のアルゴリズム自体は変わらないので一直線に来られることがない。そして、無限に蛸壺を置けることを利用して、蛸壺を超並べることで蛸をある程度減速させられる(もちろん蛸壺からも速攻出てくるのだが)。うまくやると、その状態でも蛸を倒すことさえできた。普通にやっていてもそんなに楽しくないので、この空腹プレイはしばしばやっていた憶えがある。作った側にしてみれば、あまり歓迎できない遊び方だったんじゃないかと思うけど。

メモ

  • 久々に書いた。昨年後半は週一に近いペースで書いていたようなのだが、自分でもどうやっていたかわからない。とはいえ5ヶ月は普通にサボりすぎで、まあぼちぼち書いていきたいとは思う。
  • 蛸壺をいくらでも置けたのだと思う、と書いたのは、画面外の蛸の動きやレーダーマップの関係上常に島すべてのマスの状態を管理していなければならず、だとすれば単に状態のひとつとして「壺がある」を設定すればいいだけのことだから。というか、考えてみると数を管理する方がよっぽど大変だよな。実際どうだったのかはわからない。