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ABU ロボコン 2010 本戦・エジプト大会

ということで ABU 本戦。結果から言うと、中国の電子科技大学の圧勝だった。速度、確実性ともに他国とは桁が違う印象で、まともな勝負になった試合が殆どなかった。
レールを敷く、吸盤を使う、箱を全部一度に持つ。ものすごく斬新な発想というほどではない。ひとつひとつは高専ロボコンでも時折見られるアイデアだ。でも、重量/大きさ制限をクリアしながらそれらを全て実装するのは簡単なことではない筈で、試行錯誤の末にあれだけの完成度まで持って行けたことが「力」なのだろう。
金沢工業大学はマシントラブルが続発し、力を出し切れないままの敗戦だった。とはいえ相手も強く、力を出し切れていたとして勝負になっていたかどうかはわからない。
正直なところ、日本とトップ国(中国、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアあたり)との差は年々開いている印象を受ける。日本がそう落ち込んでいるわけではないが、他の国のレベルがとにかく高い。国内大会に何百チームも出てるとか6日間やってるとか聞くだけで競争率の高さは想像できる。「手を動かす」ことの重要さを言うなら、参加チームが多いことはそれだけで強い。チームの数だけ手を動かす人がいて、その中で勝ち上がったチームが代表になるのだから。
日本の国内大会は書類選考およびビデオ選考で 20 チームまで絞るという形式だから、その時点で机上でのアイデアの選抜がなされている。おそらくコスト的にそういう方法を採らざるを得ない事情があるのだろうし、それを言ってもしょうがない、とは言えるが、ABUロボコンの本大会内のレベル比較を考える時、その方式で選んでいることは有利にはならないだろう。

今年のレポーターは明和電機土佐信道社長だった。語る言葉と説得力を併せ持つ人、という意味でこれはいい人選であったと思う。ただ、番組ではコメントする時間があまり多く割かれておらず、そこは残念だった。もう少し話を聞きたかった気はする。
とはいえそこはネット時代、本人がブログで記事を上げている。少し長くなるが引用しよう。


今回のロボコンで、圧倒的なスピードで会場じゅうがどよめいたのが、三つめのピラミッドを組み上げた中国のロボット(下写真)。
他のチームが20秒ぐらいかかっているのに、このロボットは「2秒」!!はええ!!まるでそのスピードは、「居合抜き」のようでした。僕はこのロボットに「マッハ」というあだ名をつけました。
(引用者略)
ところがですね、「マッハ君」はそんな典型的なロボットの発想ではないんですね。まずタイヤがない。移動にセンサーを使わない。どうするかというと、まず「バーン!」ってレールを引く。そしてその上を、電磁弁でロックをかけておいたアームが、空気圧と高速モーターの力で、一気に発射されるんです。
もーね、これは見るば見るほど「ロボットというよりは、投石機に近い」んです。しくみが。
このマシンを見て、おれは高専ロボコン 2004 の豊田高専のマシン「vELo-city」を思い出さずには居られなかった(コメント欄にも同様の指摘があった。両方観た人はやはり同じことを思うものなのだろう)。やっていることは殆ど同じだ。ルールの中で、目標に向けてものを運ぶために最適化された構造。典型的なロボットからかけ離れた発想。圧倒的な速度。
土佐社長はこう続けている。

例えるなら、他のチームは「川を渡るのに、船を作って、海図やコンパスを見ながら進む」のに対し、中国は「橋を渡して、渡る」ということをやってるわけです。
(略)
ところが、「ロボットはこうあるべき」という思い込みが、そのアイデアの幅をせばめ、中国のように「船ではなく、橋を作る」という発想にたどり着くことの障害になる。
(略)
そしてこの点において、日本は一番狭い発想になる国だと思う。なぜなら「ロボット大国」だと思い込んでいるからです。AIBOやASIMO、アトムにガンダムステレオタイプのロボットのイメージが氾濫している。そのため
「本来、ロボットとは”機械”であり、その作動のバリエーションはいろいろある」
ということを忘れてしまう。
この指摘は多分少なからず的を得ている。でも、6年前とはいえ、高専大会とはいえ、日本にも橋を作る奴は居たんだってことは知られてもいい。おれはそれに対して「あれはロボットなのか?」という疑問を呈してしまったのだけど、高専ロボコンの主催者は「vELo-city」にロボコン大賞を贈っている。
高専ロボコンは、各高専から2チームずつ、とにかく地区大会には出られる。大学ロボコンのような書類選考はない。その差が「vELo-city」を生んだ、というのは牽強付会に過ぎるが、ある種象徴的なマシンではあった、のかも知れない。

全試合の結果はこちら (PDF)→http://www.roboconegypt2010.com/game-results.pdf
ベトナム、マレーシアと同じ組だったのは、かなりのハードラックではあった。