黄昏通信社跡地処分推進室

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これはきみのお父さんが撮った写真だ。きみのお父さんはどういう気まぐれかメールでそれをぼくに送ってくれた。とても暑い日だったのを憶えている。
きみたちはこの日家族4人で近所のカラオケに行った。テーブル代わりに置いてあるアーケードゲームの筐体が前回来た時はたしかに魔界村だったのに今回はアルカノイドになっていたといってきみのお父さんは面白がっていたそうだ。きみはまだカラオケではうまく歌えなくて、普段家ではひとりでも歌える「日曜日よりの使者」ですら戸惑い気味に小さな声を出すことしかできなかった。そんな様子だったのに「からおけたのしいね」ときみは何回も言っていた、ときみのお父さんは嬉しそうに言っていたよ。
そのあと家に帰ってから、きみたちは忘れ物をしたことに気がついた。きみの妹の水筒をどうやら置いてきてしまったみたいだった。そこできみのお父さんはひとりでもう一度カラオケ屋さんに向かって、アルカノイドの台の下に落ちていた水筒を無事に回収した。その帰り道にこの写真を撮ったらしい。メールの本文には嵐が来るかもしれない、とだけ書かれていた。写真つきのメールなんてもらったのはそれが初めてだったし、もちろん最後だった。なのにぼくはそのメールのことをすっかり忘れてしまっていたのだけど、昨日たまたま古いメールを整理していたときに出てきたんだ。
この写真はぼくだけが持つべきものではないと思うのできみに送る。もしパスワードがわかるなら、きみのお父さんのブログのこの日のところに貼っておくといいんじゃないかな。たぶんきみのお父さんもそうするつもりだったんじゃないかと思う。どうしてそうしなかったのかは、もうわかりようがないけれど。