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角度の単位について


昔持っていたカシオの PB-100F というポケコンには、三角関数を用いた計算を行うためのモードが三種類あった。つまり、三角関数の引数に何の単位を用いるかということで、ひとつは「DEG」、すなわち degree であり度を使うモード。ひとつは「RAD」、もちろん radian でラジアンを表す。ここまではよかったのだけど、もうひとつ「GRA」というのがあった。すっかり忘れていたのだが、ふとしたことで思い出して、あらためて考えてみたけど何の略だかも見当がつかなかった。調べてみたところ、グラードという単位らしい。


1グラードは直角(90度)の100分の1である。すなわち、1回転(360度)は400グラードとなる。メートル法で、角度も十進法の体系にしようとして導入が試みられたが、普及しなかった単位である。
すごい、この説明過不足なさすぎる感じする。書いた奴凄腕だな。


それで、おれはこれを読んで地球の直径を想起した。あれは確か子午線一周を 360 で割った時に 100000 メートルになるように、みたいな定め方をして、でも測定誤差があったから実際の地球の周囲は 40000km の方が近い、みたいな話だったと記憶していた。が、かなり大きく勘違いしていた。メートル法の項をひいてみる。

それを受けて1791年に、地球の北極点から赤道までの子午線弧長の1000万分の1として定義される新たな長さの単位「メートル」が決定された(これにより地球の円周が4万キロメートルとなるように定義されたが、地球は厳密には球ではなく、回転楕円体に近い形をしているので実際にはやや誤差がある)。
つまり緯度1度ではなく、緯度1グラードに対しての子午線長が 100km だと定める筈だったのだ。だから 40000km がもともと意図された数字だった*1。フランス人わりと無茶するな、という気がするが、考えてみるとメートル法そのものが壮大な無茶で、曲がりなりにもこれだけ定着したのは相当凄いことだ。ただ、角度に関しては多分それほど多くの種類の単位が使われたりはしておらず、グラードで置き換えるメリットが乏しかったのだろう。
上に書いたおれの勘違いは多分エラトステネスが子午線の長さを求めたエピソードと混じってしまったのだと思う。36000km に定めようとして誤差で 40000km になってしまったなんて思い込みをしてしまうのは近代科学をなめ過ぎている。


山岳部で天気図の書き方を先輩に習ったとき、日本近辺だと経度1度分の長さがおおむね 100km だと教わった。赤道周の長さを 40000km、地球を真球、日本近辺を北緯 30 度で近似すると、30 度の緯線の長さは 40000*cos30°≒ 40000*1.732/2 = 34640[km] なので 360 で割るとなるほど概ね 100km になる。気象通報では低気圧の速度を教えてくれるので、半日や一日後にどの辺りまで動いているかをこれでごく大雑把には知ることができた。


最後にもうひとつだけグラードの項から引用して終わりにする。

しかし、多くの科学用計算機は三角関数のためにラジアンや度とともにグラードも提供している。
というわけで、どういうわけかうちのポケコンもその例に漏れませんでした、ということらしい。グラードを用いた計算どころか、“科学用計算”すら一度もしなかったと思うけれど。

*1:この辺自分の想起の機序がよくわからなくて、グラードの説明を読んで地球の直径を想起したにもかかわらず、その時に 40000km が意図された数字だったのだとは全然気づいていなかった。