宇宙背景放射──「ビッグバン以前」の痕跡を探る (集英社新書)
- 作者: 羽澄昌史
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2015/10/16
- メディア: 新書
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タイトルの通り、宇宙背景放射に関する本である。宇宙背景放射とはなにか、どうやって観測するのか、それを調べるとなにがわかるのか、それぞれについてわかりやすく書いてある。チリのアタカマ砂漠における観測という一番読者が入りやすいところから話をはじめて(ごまドレッシングが世界各国から来てる研究者たちに大人気って話とかすごく面白い、本当に商機が転がっているかもしれない)、協力し、あるいは競っている各チームのアプローチの方法、自分たちのチームの特徴、と説明を展開していく。著書が初めてである物理学者がいきなりこの構成で書けるともなかなか思われず、このあたりは編集者の力量も出たところかと思うが、ともあれすごく伝わりやすい本になっている。
著者は実験物理学者だが、素粒子物理から天文学へ鞍替えした少々変わった経歴の持ち主。そのあたりの経緯についても語られているが、研究者として一番脂の乗った時期にまるっきり違う(とはいえ通底するところはあるのだが)分野に転じるのは一般的にはちょっと考えづらいことかと思う。本書を読んでいるとかなり戦略的に方向転換を志して、所属先の公募に乗ることでそれを達成したそうなのだが、非常に珍しい事例だろう。もちろん本人ではそう書いていないが、著者の非凡さを示すエピソードだ。
宇宙背景放射について伝えるためには宇宙の最初やその後の膨張など宇宙の成り立ちについて語らなければならず、それも簡単なことではないが、本書では説明するべきところは説明して省くべきところは省き、過不足なく伝えることができている。ただ、終盤出てきた原子重力波の話はさすがに難しく、おれは図を何度も見ながら読んだが正直ちゃんとわかったとは言い難かった*1。伝え方の良し悪しはあっても読み手の理解力に限界はある、というのは当たり前の話なんだけど。
というわけで、宇宙背景放射ってなんじゃら、という人にはかなりおすすめです。