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[今度は縦スクロール]

■『イメージファイト』 アイレム/アーケード,1988

以前『R-TYPE』の項で書いた通り、アイレムというメーカーは一気にそれで名を上げた*1。それも、過去のイメージを完全に塗り替えてしまうほどの印象を与えていた。アイレムといえば R-TYPER-TYPE といえばアイレム。タイトルとメーカー名が不可分になるほど、強い印象を与えたゲームだったと思う。
その勢いを駆って翌年に発売されたのがこの『イメージファイト』だった。今度は縦スクロールのシューティングゲーム。1レバーと2ボタンながら、そのボタンの割り当てが「ショット」と「スピード変更」であるという少し不思議な操作系を引っさげて登場したこのゲームは、『R-TYPE』には及ばないまでもヒット作となった。
このゲームは縦スクロールながら、実は横スクロールシューティングの文法というべきものに従って作られている。縦スクロールシューティングの文法は『ゼビウス』とそのフォロアーたちが確立した、画面の擬似的な奥行きを用いた空中物と地上物の混成が主流で、空中に障害物――所謂「地形」があるゲームはあまり多くなかった。それは横スクロールの文法だったのだ。
ところが、このゲームはそんなことは気にしなかった。前作『R-TYPE』が一部の例外を除けば地形を抜きには考えられないステージ構成になっていたのに対し、全くないしほぼ全く壁のない面や、入り組んだ地形を縫うように進んで行く面や、その混成で作られている面などさまざまなステージが盛り込まれていた。それはゲーム性の広がりと展開のメリハリをもたらしていた。
その展開が破綻しないために導入されたシステムが、自機のスピード変更だった。画面中央下に[1][2][3][4]という速度ゲージが出ていて、1が一番遅く4が一番速い。開始時は[1]になっていて、1回押すごとに1→2→3→4→3→2→1→2→……。と変わっていく。場面に応じた速度を選択することで、性格の違うステージが共存できていた。
また、スピード変更ボタンを押すたびに、自機の後方に短いながら炎が噴射される。これには攻撃判定があり、ごく近くの敵にならダメージを与えることができた。
実は、正直に言えば、スピード変更も後方噴射もあまり成功したシステムとは言えない。どちらも「使わされている」感が強く、それがなければ成立しない面白さを作り出せていたとは言いがたいからだ。たぶん、なければないでわずかな調整を施せばゲームになっただろう。ただ、自機のスピードが変えられるのは楽しかった。操縦している感覚がより強く感じられたからだと思う。
自機のパワーアップは「パーツ」と「ポッド」によってなされた。「パーツ」は、装着するとパーツの種類に応じた特殊攻撃が可能になる。自機の通常弾に比して概して格段に強力で、またヴァリエーションにも富んでいる。先に進むためには欠かせないが、「パーツを装着した状態では他のパーツが付けられない」という特徴がある。そのため、パーツを変えたい時には敵にぶつける、あるいは敵の攻撃を受けるなどして着けているパーツを壊す必要があった。
色や形の違うパーツを色々着けてみるだけでも中々に楽しく、場面に合ったパーツを探す過程も面白かった。ガジェットとしての楽しさがあったと思う。それだけに、パーツ毎の強さの差が激しく、楽に進もうとすると最終的にはごく限られた種類のパーツしか使わなくなってしまうのは少し残念だった。
ポッドはこのゲームの肝ともいえるパワーアップシステムだった。丸い浮き砲台で、攻撃は自機の通常弾と同じ。また触れるだけでもわずかに攻撃力があり、耐久力のない敵ならぶつければ倒すことができる。赤と青の2種類があって、合計3つまで取ることができ、左→右→後の順に装着される。3つ着いている状態で次のポッドを取ると、すべてのポッドがその色に変わる。
青いポッドは常に正面向きに固定されていて、面白いところは何もない。そして、ゲーム上も殆ど役に立たない。ポッドの真髄は赤にこそあった。赤ポッドは、レバーを入れたのと反対方向を向く。向ける方向が16方向あるから正確には中間の向きも存在するのだが、ともあれおよそ自機の進行方向と逆を向く。このために、敵から逃げながら、あるいは迫ってくる敵との距離を保ちながらポッドの攻撃を浴びせ続けることができる。この特性が独特の面白さを生んでいた。フォロワーのなかったシステムだが、非常に優れたアイデアだった。
ポッドはまた「ポッドシュート」という攻撃にも用いることができた。ふたつのボタンを同時に押すことで左右のポッドが飛んで行ってダメージを与える、中々に攻撃力のある技だったが、射程が短い上に引っかかる地形でないとすぐ戻ってきてしまうために連射しなければならず、そうすると同時押しの特性ゆえ暴発して自機のスピードが変わってしまう、という事故が多発した。必殺技っぽくてかっこいいのだが、これも成功したアイデアとは言えなかった。おそらく、専用のボタンをつけた方がよかっただろう。そしてそれだけではなおまだ足りないが、ここではそれ以上は考察しない。
R-TYPE』で見せた繊細さと大胆さも健在だった。細かい部分まで描きこまれたメカや背景、次々に登場する巨大な敵たち、比較的低速で飛んでくる敵弾、どうやら重力の働いているらしいステージ、最終面の目が眩むほどの奥行きを持った重層構造。
イメージファイト』のタイトルどおり、5面まではヴァーチャルリアリティの戦闘訓練、という設定も面白かった。各面の最後に敵撃墜率が表示され、5面までの平均撃墜率が90%を切るとペナルティ・ステージに送られてしまう。90%以上を取るか、ペナルティ・ステージをクリアすることで、6面以降の実戦ステージに進むことができる。慣れれば、5面ボスを逃したりしない限りはほぼ達成できる数値なのだが、その5面ボスが若干運も絡む部分があり、結局討ち取れずにぎりぎりの数値で平均値の発表を待つ、なんてこともあった。
ペナルティ・ステージの難しさはもはや伝説となっている。パーツ、ポッドは一切出現しないのに、実戦でもあいまみえないような強力な敵が目白押し。敵の出現パターンを完全に記憶して、完璧な対処を行わなければクリアは不可能とされていた。2周目のペナルティ・ステージともなると、シューティングゲーム史上屈指の難度とすら言われている。しかしおそろしいことに、このステージでもスコアが加算されるため、ハイスコアを目指すためには理論上はあえてペナルティ・ステージに乗り込んだ上にクリアすることが必要だった、らしい。
単にエンディングを目指すだけでも、それなりの連射力が必要で、憶えることも多かった。クリアするのはかなりしんどいゲームだった。だけどそれ以上に楽しかった。『R-TYPE』同様、2周目になると大幅に難度が上がるのだが、それでも頑張ってやり続けた。連射装置付とはいえ、一度だけ2周目の実戦まで進めたことがあったほどだ。それほど好きなゲームだった。
詰め込まれた要素が全て噛み合って成功しているとは言えない。でも、ポッドは素晴らしいシステムで、敵やステージのデザインも美しく、難しいなりに難度上昇も計算されていた。非常に完成度の高いゲームだったと思う。
最後にひとつ。このゲームのガジェット的な魅力のひとつに数多いパワーアップパーツがあることは上でも少し触れたのだけど、その中に「サイド」というパーツがある。その名の通り左右を同時に攻撃できる、のだが、前には弾が撃てないうえに連射が効かなくて威力も弱い。ポッドがある以上横方向を攻撃できること自体は大したアドヴァンテージではないし、ポッドがない時にサイドだけ装着するとなると殆ど自殺行為だ。まったくのくずパーツとしか評価しようがない。しかも、全面中でもたった一度それも2面で登場するだけで、実戦配備されてすらいないのだ。実戦に投入しなかったのは全く正しい判断だろうが、では何故訓練ステージに登場するのか。
このゲームは見かけると未だに時々遊ぶのだが、2面の初めに他のパーツに混じってぽつんと登場する左右に砲塔の突いた水色のパーツを見ると、とりあえず装着してみようかなあという衝動にかられてしまうことがある。惜しげもなく次々に登場するアイデアに目も眩む思いだったあの頃と、まったく同じように。

*1:今読み返してみたらそんなこと全く書いてなかった。どうしよう。