黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

[地面はどこ?]心に残るゲームたち (38) :『タイムパイロット』



■『タイムパイロット』 アーケード/コナミ,1982


見上げればはるかに蒼穹が続き、眼下には大地すら視野に入らぬ天空の高み。上を向いているか下を向いているのかも定かでなくなるほどに、ひたすらに青い空と白い雲、飛び交う有象無象の複葉機


タイムパイロット』は全方向(正確には 16 方向)スクロールの、サイドビューのシューティングゲームだ。自機が中央に固定されている、シューティングゲームでは比較的珍しいスタイルをとっている。ただ全方向スクロール、あるいは全方向から敵が出現するゲームだとそれなりに必然性があるので、『ボスコニアン』『NOVA2001』など、時折見られるスタイルではある。少し古いが『アステロイド』は直系の先祖と言えるかも知れない。


サイドビューのシューティングゲームの強みのひとつに、「地面や壁を登場させることができる」ことがあると思うのだが、このゲームはそんなことを全く気にしていないみたいだった。どこまで飛んでも壁も地面も登場せず、ただひたすら空、あるいは宇宙空間が続いていた。
もうひとつサイドビューならではのフィーチャーは「重力が働いている」だが、2面の敵が放ってくる爆弾がただひとつこれを体現していた。この爆弾が描く放物線だけが辛うじて、この空にも重力があるのだなということを思い出させてくれた。


ゲームの目的は一定数の敵機を倒すこと。画面下部にゲージが出ていて、敵を倒すごとにゲージが減っていく。ゲージがなくなるとボスである大型機が登場し、それを倒すとラウンドクリアとなる。
各面の冒頭ではラウンド数と同時に年号が表示される。たとえば1面だと「A.D.1940」という具合だ。そして、ラウンドクリア時には画面の中央に白い裂け目のようなものが現れて、自機はその裂け目にとけ込むように消える。
つまり、どうやら自機は時空を超えながらその時代時代の戦闘機を圧倒的な機体の能力差で虐殺しまくる、という設定らしいのだけど、どんなストーリーがそれを正当化していたのかは流石にちょっと見当がつかない。個人的にはストーリー自体はどうでもいいのだけど、その正当化の理屈はちょっと知ってみたい気がしなくもない。


操作感覚が実に面白かった。自機は 16 方向を向くことが可能だが、向いている方向に常に一定の速度で進み続ける。加減速もできないし、止まることもできない。方向も一度に 22.5 度ずつしか変えられない。たとえば真後ろに向こうと思ったら、小さな半円を描く必要がある。
といっても、実際にレバーをくるくる回す必要はない。たとえば自機が真左を向いているときに右上にレバーを入れ続けると、自機は自動的に左から左上→上→右上と方向を変える。この操作は他のゲームにはあまりみられないもので、このゲームのユニークな部分だった。


敵は単独で飛んでいたり、編隊飛行していたりするが、総じて自機に向かってくる傾向がある。自機と敵機との速度差は序盤面の時代でも大きくはなく、一度接近してきた敵機を引き離すことは難しい。前にしか弾を撃てない自機の特性を考えると、後ろをとられることが単純にかなり苦しい状況と言える。


だから、このゲームで常に取るべき正しい戦法は、敵機に頭を向けてどんどん突っ込んでいくことだ。機首を左右に小さく振って弾を散らしながら、敵の編隊のただ中を切り裂いて、後方に逸らした敵がいたらすぐに回頭して始末する。編隊を全滅させたらすぐに次の編隊の方を向く。
ショットボタンを1回押すだけで、3発続けて弾が出る。連射が利くので弾切れの心配はない。また、こちらの弾の攻撃判定が比較的大きく、自機のやられ判定は当時のゲームにしてはかなり小さい。そのバランスを見ても、ひたすら接近戦を挑む戦法がプレイヤーに推奨されていることが判る。どんどん敵を片づけて、次々に新しい敵の相手をする。
大型機だけはちょっと勝手が違って、流石に第一次の接近までに倒せるほどやわじゃない。とはいえそれほど硬いわけでもないから、例えば後ろに回り込めばあっという間に倒せる。各面の区切りではあったのだが、それほど厄介だった印象はなく、大型機で死ぬことは少なかったと記憶している。


ユニークな操作感覚と、次々に出てくる敵に突っ込んで行って生き残る快感は、他のゲームであまり味わえない種類のもので、慣れてくるとこのテンポがとても気持ちよくてやみつきになる楽しさだった。かなりヒットしたらしいがそれもうなづける。おれが遊んだのは主に 90 年代に入ってからだったが、周囲のゲームに負けないプリミティヴな面白さを持っていたと思う。
何度も書いているが、おれはこういう独特の操作感覚があるゲームが好きで、自機を操作しているだけで結構楽しいし、そのためにコインを入れてしまうようなところがある。具体的には『クレイジークライマー』や前回の『グロブダー』、またコンシューマになるが『テン・エイティ』などが挙げられる。世の中にはたぶんまだおれが知らない、動かすだけで楽しいと思えるゲームがたくさんあるだろう。今後もそんなゲームに出会いたいものだ。そのためには、やったことないゲームにどんどん挑戦しないといけないんだけどね。

補遺

このゲームはかなり売れたようで、2年後には続編『タイムパイロット '84』が出ている。が、そっちはあまり売れなかったのか、記憶にある限り実機を見たことがない。おれがゲーセンに通い始めたのは 1987 年なので本作が出てから5年経っていたことになるが、本作は時々見かけた一方で『'84』の方は全然見なかった。


『アステロイド』については殆ど記憶がないのだが、小学生の頃何度か行った旅館のゲームコーナーに置いてあったのが今思うとアステロイド、もしくはそのクローンだった。小銭すら持っていなかったので結局プレイすることはなかったのだけど、なんとなく不思議な存在感があって忘れられない。後年兄に「これこれこういうゲームがあって」という話をしたら「タイムパイロットじゃないか?」と言われたのだが、自機の形が明らかに違ったし、隕石が飛んできてたと思うので。