黄昏通信社跡地処分推進室

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交流重賞、夜明け前 澤村康,2005

遅ればせながら、感想など。
往年のブリーダーズゴールドカップを通して、交流重賞開始直前における地方競馬の“ハレ”の日を活写したエッセイ。この直後からいよいよ中央・地方の交流は(重賞レヴェルでは)活発になって行くのだけど、一方で地方競馬は深刻な苦境に立たされて行く。この頃は、その上り坂と下り坂がちょうど交わる時点であったのかも知れない。
十年前の通過点1点を切り取って振り返ることで、この十年の流れが浮かび上がる、という意図で書かれているのではないかと推測するのだが、そのために挿入されている(これも推測)バーベキューのくだりが全体から浮いてしまっている印象を受ける。なんで肉の話こんなにしてるんですか、みたいな。多分他のエピソードでも代替可能なのだけど、傾きかけた陽射しの明るさや暖かさを表現するのに何がふさわしいのか、はちょっと判らない。
パドックからレースシーンまでの描写は流石というべきで、現場の空気がよく伝わってくる。今日日はちょっと探せば思いもよらないようなレースの映像まで見つかるけれど、その場に居た人にしか共有されないものというのは、映像に映らないものを抜きにしても結構あるのだろうなと感じさせられる。カリブソングの晴れ姿は、その空気とあいまってなんとも切ない。追記のように短く書かれた最後の段落に、その余韻が残って心地よい。
そんなところで。ちょっと駄目出しっぽくなってしまいましたが、中々面白かったです。惜しむらくは、上にも少し書いたように一貫性を欠く印象があったところかな、と。もっとソリッドなものができるんじゃないかという期待も込みで。