黄昏通信社跡地処分推進室

黄昏通信社の跡地処分を推進しています

[Ready Go!]

『プラスアルファ』 1989,ジャレコ/アーケード
このゲームは仲間うちで異常に人気があった。とにかくやりたがる奴が多い。しかし難度が低いので1ゲームの時間が長く、普通にやってると全然順番が来ない。おれたちは一計を案じて勝手にルールを定めた。グーパーで組を決めて、1P 側と 2P 側にふたりずつつく。そしてそれぞれの側について一機交替で遊ぶ。これで4人まで遊べる。それでも4人まで絞るためにじゃんけんをした憶えがあるから、よほど人気があったのだろうと思う。実際、他のゲームは殆どやらないけどこれだけはやる、という奴も何人か居た。
ゲーム自体はオーソドックスな縦スクロールのシューティングゲームだ。敵は空中物と地上物で、自機のショットは地上・空中の撃ち分けがなく両方に当たる。自機の武器はノーマルショットと弾数制限のあるハイパーショットがセットで3種類あり、パワーアップが7段階。各面がひとつの「国」になっていて、ステージの最後では画面のスクロールが止まってボスが登場する。全7面で、7面をクリアすると3面に戻って以後はループする。難度は4周目まで上がり続ける。具体的には、敵弾の速度が速くなり、敵の耐久力が上がる。
とにかく可愛く、というのをコンセプトに作られていて、その点は徹底していた。自機も敵機も丸っこく、パステルカラーとジャレコの基板の発色もあいまって軟質なイメージで統一されていた。一方で自機のパイロットは女の子という設定で、幕間の一枚絵やミニゲームに登場する辺りはむしろオタクに阿っている印象が否めず(いや、好きだったんですけど)、誰向けなんだという気はしなくもなかった。
冒頭にも書いたが、難度は低かった。当時のシューティングゲームはインフレのように難度が上がり続けている時期だったから、その中に入れば尚更だった。自機がパワーアップした時の難度上昇も比較的緩やかなので、遠慮なくパワーアップを集めて爽快感を味わうことができた。
一撃必殺の「ハイパー(ショット)」も強力だった。自機の武器によって種類が違うのだが、それぞれに長所があって、使い方をわきまえていればどれも頼りになった。各面をクリアするごとにハイパーの弾数は3に戻るから、それを上手く使うだけでもそこそこ進めた。
また、面クリア時に残っているハイパーの数だけ絵合わせのミニゲームを遊ぶことができた。ちゃんとパワーアップや次の面のハイパーの追加などの「賞品」もあったので、腕に自信があればなるべく多くハイパーを残すことも目標になった。
簡単とは言っても、それなりに強い敵も出てくる。各面にはそれぞれ固有の中型機が登場して、展開にアクセントを添えている。画面が多少左右にスクロールするので、地上物も端から撃っていればいいというほどではない。「攻略」の面白さもきちんと盛り込まれていた。それでも、そこそこやりこんでいればある程度攻略法は見出せて、それを適切に実行できれば早晩1周クリアには辿り着けた。
それぞれの面が工夫を凝らされていてなかなか楽しかった。各面がひとつの「国」という設定で、1面は山間の集落に風車が立ち並ぶ風の国、2面は一転して海に出て真青な海の上を進み、3面はスタートするなり一面のお花畑に飛び出して行く……といった具合だ。「古来ゲームは観光であった」とブルボン小林が書いているが、まさにこのゲームには観光としての楽しさがあったと思う。
ふたつのささやかな隠し要素がプラスに作用していたのも印象深い。
ひとつは地上から「生えてくる」キャラクタで、特定の地点(各面に6〜8箇所)の上空を自機が通過すると出現する。最初は上部がちょっとだけ見えて、二度、三度と通過するごとにどんどん大きくなる。5回通過すると「5000」の文字に変わり、得点が 5000 点加算された。このキャラクタは面ごとに決まっていて、1面ではきのこ、2面ではタコ、3面では朝顔の花だった。探しているだけで楽しかったし、多く出現させようとすると必然的に難度も上がる。バランス調整としてもちゃんと機能していた。
もうひとつは「隠れハイパー」と呼ばれていたフィーチャーだ。こちらは特定の地点にハイパーを当てるとハイパー追加のアイテムが出現するというもので、場所によってはハイパー一発でハイパーアイテムがふたつ出せたりした。少し意地の悪い仕掛けだが、敵の攻撃が厳しいところに仕込まれていることが多く、自然に気付いた人も多かったと思う。「隠れハイパーの出現地点付近では自機のノーマルショットが敵の中型機を(見た目)貫通する」というサインもあったのだけど、こちらに気付いた人はむしろ少なかったかも知れない。これも探すだけでも面白かったし、単純に攻略の助けになった。もう少し簡単に見つけられた方がなお好かっただろう。
かように可愛く楽しく(比較的)簡単に、当時のシューティングゲームの志向に対するアンチテーゼ的に作られていたこのゲームだが、全体としては目新しさのあまりない平凡なゲームに終わっていたのは否めない。基板の性能の低さもその印象を強めていた。敵弾の描画のすかすかぶりには今見ても悪い意味ではっとさせられる。ポップなデザインなのにざらっとしたグラフィックなのも勿体なかった。インカム、評価ともにそこそこ程度にとどまったと記憶している(おれの行ってたゲーセンでは別だが、それでもインカムは大したことなかっただろうと思う)。残念ながら妥当なところだろう。
それでも最後にもうひとつ、絶対にほめておきたい点がある。BGM だ。各面に1曲ずつ、それとボス戦、ミニゲーム、エンディングにそれぞれ用意されているのだが、シーンによく合っている、というレヴェルを超えて面の雰囲気を作っていると言っていい。作曲者*1は現在ミュージシャンとして活躍されているそうで、さもありなんと思う。
このゲームのサウンドトラック*2が出ると聞いて、発売日にレコード屋を回って買ったのを懐かしく思い出す。今でも大事に持っているその CD をかけると、当時の光景がぼんやりと脳裡に浮かぶ。薄暗いゲーセンで、50 円を割り勘して遊んだ日々のことが。

*1:作曲者:多和田吏氏。詳細は本人のサイト参照。過去手がけた作品にゲームも全部載せていて、もちろんプラスアルファも入っている。「シューティングに明るくファンタジックな音楽を付けようとした。」とのこと。

*2:サウンドトラック:『プラスアルファ オリジナルサウンドトラック』ポニーキャニオンサイトロンレーベル G.S.M.1500 シリーズ,1989 PCCB-00015