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『ぼくはおとうと』 小原愼司 講談社/アフタヌーンKC,1993 ISBN:9784063140927

小原愼司のデビュー作。第一話が四季大賞を受賞し、そのまま連載になったようだ。両親を事故で無くしたきょうだいの生活を描く。ことさら大きな事件は起こらない、どちらかと言えば淡々とした日常が、とても繊細に描かれている。主人公である弟のナイーヴさ、諦念めいた感情、同居する姉のやさしさ、不安定さ。しかしそれはぬるく過ぎるのではなくて、得体の知れない緊張感がほぼ全編にわたって漂っている。その時その人にしか抱き得ない切実さのようなものをなんとか作者は捉えようとしている。それはある程度成功していてある程度拡散してしまっていると思う。でも、それも含めて、なんかいいなあと思う。
それにしても、人形マニアの男の気持ち悪さがなんだかわからないほど絶妙だ。以前黒田硫黄が描くしょぼいおっさんの素晴らしさについてちょっと書いたことがあると思うが、小原愼司も相当なもんだね。『二十面相の娘』の探偵とかね。

これは近所のドラマで捕獲。絶版らしいけど今はダウンロードで読めるらしい。400 円とか。同じ作者の『菫画報』も絶版になって久しいが、また読みたいと思っている。