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「電線絵画展 -小林清親から山口晃まで-」 練馬区立美術館,2021-02-28~2021-04-18

日曜美術館のアートシーンで紹介されていて、面白そうだし楽しそうだったので子供たちを誘ってみたところ行くというので家族で出かける。練馬区立美術館は中村橋にあってなかなか遠いが、上手くFライナーを拾えてまあまあ快適に行けた。あと駅からはめちゃくちゃ近くてよい。タイトルの通り、本朝の美術作品で電線や電柱(電信線や電信柱も含む。この辺のことは展示の冒頭にくどいぐらい細かく書かれていた。)を扱ったものを一堂に集めたなかなかユニークな展示だった。
時代としては明治ひと桁ごろからスタート。よく考えると当たり前だが、通信線のほうが先に敷設されたので最初期の絵はすべて電信線が描かれている。わけても小林清親というひとは電信柱/電信線に特別な思い入れがあったようで、数多くの作品に描いている。このあとは富士山と電柱、切通しと電柱、架線の時代……、といった小テーマごとに展示が続いていくのだが、意外な有名作家の作品も入っていたりして面白い。たとえば「切通しと電柱」はほぼ岸田劉生の作品だ(といっても五点だが)。このころの代々木はまじで滅茶苦茶田舎で笑ってしまう。あとは岡鹿之助が二点出ていたが、いずれもヨーロッパの風景を描いた作品で、ヨーロッパには存在しないはずの電柱が描かれている。このように電柱に執着する作家がいた一方で、逆に明らかに存在している電柱や電線をオミットして描いてしまう作家も多いのだそうで、なかなか面白いものだなと思う。
執着という点でずば抜けていたのは浅井閑右衛門という戦後まもなく活躍した作家で、この人はずばり「電線風景」というタイトルで何枚も絵を描いている。正直個人的にはあんまりぴんと来なかったけどその意気は買いたいところだ。あと気になった作家は藤牧義夫という人で、「隅田川両岸画巻」という超大作をものしているのだがその直後に失踪と書かれていて一体なにがあったのか。帰ってからちょっと調べた感じでは本当にあんまりわかっていないようで、浅草から向島に行くと言ってそれっきり、みたいな感じだったらしい。川瀬巴水という人の版画は色が鮮やかでよかった(これは摺り師をほめるべきだろうか)。
一階の第3展示室では関連作品?ということで碍子が展示されていてこれはよかった。基本的には機能だけを旨にデザインされているはずだが、やることが明確で材質や製法的な制約が比較的大きいためある種の必然がもたらすシンプルで美しい形になる。これは家に置いてもいいかもと思うものすらあった。
最後は現代美術で、満を持してみんな大好き山口晃が登場する。もともとかなり早い時期から電柱を題材にした作品を作っていたらしいが、今回は立体物の展示はなく、「演説電柱」と、モーニングツーで連載している『趣都』の第一回と第二回「電柱でござる!」前後編の原画が出ていた。『趣都』のほうは途中の休憩スペースにプリントアウトして冊子ファイルに入れたものが置かれていて手に取って読むことができたが、実に山口晃的で楽しい漫画だった。当たり前だけど絵はめちゃくちゃうまいし、漫画もうまいし、展開される主張も面白い。この調子でいろいろ書いてくれたら楽しいが、現実には忙しすぎてこのあとおそらく一度も掲載されていないらしく、まあ難しいものである。
現代美術ではほかに久野彩子という人の作品がよかった。ロストワックスという、蝋で原型を造ってからそれの型をとり、蝋を溶かして残った型であらためて金属を鋳造する技法があるそうなのだけど、もっぱらこれで作品を作っている作家らしい。これで作った真鍮の小さな鉄骨や建造物を象った造形物と、木製の古い道具を組み合わせた作品が二点出ていて、古びて黒ずんだ木製品の風合いと微細できらきらした真鍮細工の組み合わせが最高だった。こういうの見てると欲しくなっちゃう。別の展覧会だけど、作品のイメージはこんな感じ→久野彩子 作品紹介: line。このページに出ている《35°42′36″N,139°48′39″E》という作品が二点のうちのひとつ。あと、本人のウェブサイト
とまあそんな感じで楽しく面白い展示だった。子供たちも、上の子はもう普通に楽しんでいたし、下の子は途中で飽きて機嫌悪くなってたけどちょっと休んだら回復して最後まで付き合ってくれたので、本当に成長したなーと思う。それも含めて、とてもよかった。
練馬区立美術館 -- 展覧会 -- 「電線絵画展-小林清親から山口晃まで-」